【峠】司馬遼太郎(著)

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【勝てば官軍】とはよく言ったもので、明治維新の立役者である坂本龍馬、西郷隆盛を初めとする維新側は現代日本人にとってのヒーローのように扱われる一方で、幕府側にも己の正義を貫いた敗者がいる。

【河井継之助】この人物が本書の主人公である長岡藩(現在の新潟県)の武士であり家老にまでなった、私が最も畏敬する一人だ。

『この男は生まれた時代が違った』と本書を読み終えて思った。

徳川300年時代に生まれていれば、優秀な政治家になっていたであろうし、維新後に生まれていれば明治の近代化をもっと早めていたと思うし、現代に生まれていれば、政治家、はたまた大きな財をなしているだろう。

現代で言えば、スティーブ・ジョブズにもなり得たし、ウォーレン・バフェットにもなり得たし、吉田茂にもなり得た程の人物であったと感じている。

その理由は河井継之助が持つ強い信念、行動力、そして誰よりも優れた『先見の明』を持っていたからだ。

江戸幕府の終焉、長岡藩の終わりを感じつつも、幕府を支持する藩主と新政府軍の間に立って、長岡藩を守ろうとする姿勢は、現代の中間管理職のようでもある。ただ、その行動力と戦略が頭抜けているところがこの男の秀でた能力であった。一例として、当時の日本には3門しかなかったガトリング砲のうち2門を長岡藩が所有していたというのも常識外の交渉術と奇想天外とも言える貿易手段によるものである。『武力による交渉力を以って言い分を通す』これが河井継之助の長岡を守る手段だとは、あまりに突飛でなんと傲慢かと感じてしまった。

司馬遼太郎の書く物語は、実話とフィクションの境目が本当にわからなくなる。作者の取材と史実をもとに書かれた、いわば、司馬遼太郎のフィルターを通して見える河井継之助の人物像は、私には坂本龍馬と重なって見えた。

幕末のヒーローが坂本龍馬であることに異論はないが、裏のヒーローは河井継之助であると私は感じている。坂本龍馬の脱藩する行動力、薩長同盟を目指す発想の豊かさ等、共通点が多い。

2人に違いがあるとすれば藩主への忠義心から来る立場だけではないか?

土佐を捨て新政府を目指した坂本龍馬と、長岡と藩主を守るため体制を維持しようとした、2人のコントラストに歴史ロマンを感じずにはいられなかった。

「知行合一(ちこうごういつ)」これは継之助が17歳から学んだとされる陽明学という学問、哲学の代表的な考え方になります。「知ることと行動は一致していなければならない」という意味で、ビシネス書を100冊読もうが自分に取り入れて行動しなければ知っていることにはならないのだと自分自身、銘記しなければならない。

この学問の片鱗に本書を通して、河井継之助を通して触れることは1冊の自己啓発本を読むより、意義深く身に染みるものであった。

ただの歴史小説ではない。是非手にとってほしい。

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